ああ。
 この人は私を置いて、1人で行ってしまう。
 もう、私の叫びも願いも届かない。
 どんなに乞うても、どんなに頼んでも。
 この人の意思は変わりはしないのだと覚った。

 そうして、貴方は私を残していく。
 生きる道を私に残して。
 貴方は私を置いて行く。

残される

 私の想いが生まれたとき  あなたがそばにいてくれた

 あなたの優しさで  私は優しさを、あたたかさを知った
 あなたの悲しみで  私は悲しみと切なさを知った

 良いものばかりではないけれど  それも全部含めて、私を満たしてくれる
 あなたが私のそばにいてくれて  私のそばにいてくれたのがあなたで

 本当に良かった

 ありがとう

 この言葉を、あなたにおくろう

旅立つあなたに私はおくる
あなたの背を身ながらおくろう

「せい・・・やぁぁあああああああ!!!」
 元気な、いや、恨みがこもっているような大きな掛け声とともに、ゴツッという鈍い音が響きわたった。その鈍い音を立てた人物は悲鳴を上げることも出来ず、頭を押さえてもだえている。
「どうですか?目が覚めましたか?」
「お前、もう少し優しいやり方があるだろう」
「貴方にはこれで丁度良いでしょう」
 恨めしげに見上げてきてもいけしゃあしゃあと返す。それに不満を持とうにも、再び嫌味を言われる。

うっぷん晴らし

 あるところに1人の少女がおりました。
 少女は子供と呼ぶには月日を過ごし、大人と呼ぶには頼りない年頃でした。
 ですが、そんなあいまいな存在の少女の言うことには、不思議な力がありました。
 少女が口にする言葉には他のものを従わせる力があるのです。

 ある日、一匹のねこが少女に頼みました。

「あっちの村は“人の影を踏んではいけない”という掟がある。日があるうちは、ゆっくりと歩いていられない。掟をなくしてもらえないだろうか」
 少女はねこの頼みを聞き入れ、あっちの村まで行き、掟を作った人のもとを訪ねました。
「こんにちは。あなたが“人の影を踏んではいけない”という掟を作った人ですか」
「ええ、私がそうです。何か用ですか?」
「実はねこさんが私にその掟を無くしてほしいと頼みに来ました。どうか掟をなくしてください」
「わかりました。では今からその掟を無くしましょう」
 掟を作った人は頷いてくれたので、少女は安心して自分の家へ帰りました。
 ある日、一匹のうさぎが少女に頼みました。
「こっちの村は“子どもは走ってはいけない”という掟があります。子どもたちが遊べないと泣いています。どうかこの掟を無くしてください」
 少女はうざぎの頼みを聞き入れ、こっちの村まで行き、掟を作った人のもとを訪ねました。
「こんにちは。あなたが“子どもは走ってはいけない”という掟を作った人ですか」
「ええ、私がそうです。何か用ですか?」
「実はうさぎさんが私にその掟を無くしてほしいと頼みに来ました。どうか掟をなくしてください」
「わかりました。では今からその掟を無くしましょう」
 掟を作った人は頷いてくれたので、少女は安心して自分の家へ帰りました。
ある日、一匹のいぬが少女に頼みました。
「そっちの村は“昼間は眠ってはいけない”という掟があります。お昼寝が大好きなおばあさんの楽しみがなくなって、悲しんでいます。どうかこの掟を無くしてください」
 少女はいぬの頼みを聞き入れ、そっちの村まで行き、掟を作った人のもとを訪ねました。

「こんにちは。あなたが“昼間は眠ってはいけない”という掟を作った人ですか」
「ええ、私がそうです。何か用ですか?」
「実はいぬさんが私にその掟を無くしてほしいと頼みに来ました。どうか掟をなくしてください」
「わかりました。では今からその掟を無くしましょう」
 掟を作った人は頷いてくれたので、少女は安心して自分の家へ帰りました。

 それからもいくつもの掟を無くしてくれと少女に頼むものたちが絶えませんでした。

 ずっとそれらを叶えてきた少女はついにある一つの掟を作ります。

「もう、変な掟を無くしてもらうことばかり頼まれるのはうんざり。そうだ、“変な掟を作ってはならない”という掟を作りましょう」

 良いことを思いついたと、少女はその掟を作りました。

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そのうち続きを書きます。多分

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