癒えていない、傷
「大丈夫だって言ってたのに。ずっと待っていたのに。こんなのって、ひどすぎるよ」
顔を手で覆い、彼女は頭を伏せた。
あの人もずっと待っていた。
彼女と結ばれる日を。
2人が幸せそうに笑っているのを見るのが好きだったんだ。
現実はあまりにも辛すぎる。
あれから7年 彼女の傷はまだ癒えていない。
夏の日
暑い日差しが降り注ぐ中、あの人に出会った。
「ああ、もう!どうしてこうなるかなぁ」
怒りを振りまきながら、持っていた携帯をぶつける様にカバンの中に入れる。更に朝から上手くいかない自分の行動に嫌気がさして、膝を抱えて座り込んだ。
もう嫌だ。
どうしてこうも悪い事ばかり続くんだ。
今日は久しぶりに出かけることが出来たのに、この暑さで具合が悪くなる。迎えを呼ぼうにも、連絡手段の携帯電話は先程電池のマークを点滅させながら動力不足で使い物にならなくなった。
どうしたものかと考えていると、ジリジリと焼かれていた背の痛みが和らいだ。
何だろうと顔をあげて見ると、日傘で自分に降り注ぐ日差しを遮ってくれている女性が立っていた。
その瞬間、脳裏にある光景が過ぎ去った。
突然の事に反応できず、ぽかんと見上げていると、女性が口を開いた。
「あなた、座り込んでどうしたの?
その言葉に違う人の面影が被った。
「え、あの、何でもありません。心配して下さってありがとうございます。もう大丈夫です」
自分の答えに戸惑う女性にかまわず、荷物を持って歩き出した。
後ろは振り向かない。
あなたは耐えられますか
貴方のエゴで私たちの生活を壊されたの!
そう言われたとき、自分の世界の狭さを想い知った。仲間の中には助けてやったのに恩知らずな奴だと罵る人もいたが、オレは自分の価値観が揺らいだのを感じた。
思い出すのはあなたの背中ばかり。
ちゃんと向き合って話したのは何回だろう。
いつも私に背を向けていたあなた。
何故あなたが私を選んでくれたのか分らずに、いつも不安に思っていた。けれど、あなたの側で、あなたの背中を見れるだけで、私は十分だった。
あなたは今、何をしているでしょうか。
珍しく2人で外に散歩に出かけたときの、夕日を覚えているだろうか。
あなたが綺麗な夕日だと呟いて、その後、な?って私に笑いながら私に問いかけてきた。
私は嬉しくて、そうだねって答えた。そのまま何となく手を繋ぎたくなって、少しドキドキしながらあなたの手に私の手を重ねてみた。
そしたら、あなたはぎゅっと優しく私の手を握ってくれた。
嬉しくて、へへへ、と笑ってあなたを見ると、あなたはぶっきらぼうに、こっちを見るな、と言ってそっぽを向いた。
あれが2人で出かけた最後だったね。
夏の日に2人で見た、綺麗な夜空を覚えているだろうか。
家の縁側に並んで空を見上げて、いつの間にかあなたは柱に寄り掛かって寝てしまっていた。私は寝てしまったあなたに呆れながら、風邪をひかないようにあなたにブランケットを掛けて隣でずっと夜空を見上げていた。時折あなたがいう意味のわからない寝言に笑いながら、私はずっと1人で夜空を見上げていた。
あれが2人で過ごした最後だったね。
あなたと過ごした月日から考えると、とても少ないあなたと私の思い出。
それでも、私は幸せだった。
あなたも私と過ごした時間が、幸せなものであったなら、それだけで十分。
いつも私に背を見せていたあなた。
あなたは幸せでしたか?
私とともに過ごしたとき、あなたは幸せでしたか?
私を覚えててくれますか?
その答えを、私はあなたに聞きたかった。
覚えていますか
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