「俺はお前が好きだ」
そう言う目の前の彼に、私は呆然とした。
告げられた言葉に頭が上手く働かず、状況を整理する事も出来ない。
そんな中、頭にゆっくり浮かんだのが。
「どうして、今さら」
彼と私は高校に入ってから知り合った。
とは言え、その前から私と彼はお互いの事を知っていたのだが。
何故なら、彼の友達の中に私の幼馴染がいるのだ。
幼馴染の語る話の中に出てくる彼。
会った事も無い私は、彼に興味を持った。
どんな人なのだろう。
幼馴染から話を聞くたびに、彼の事が知りたくなる思いが強くなっていく。
そして唐突に、私は彼と出会った。
最初は興味…その後は。
彼と出会って季節が一廻りしたころ、私と彼と幼馴染の三人で話していたときの事だ。
私の幼馴染である博和が発端で、恋に関する話題になった。
「俺、どうしようもなく好きな子がいるんだ」
それまでの会話の切れ目に、彼は爆弾を落とした。
いきなりの幼馴染の告白に驚いた私は、飲んでいたオレンジジュースを吹きこぼしそうになる。
「げほっ」
「いきなりどうしたんだよ、ヒロ」
むせる私の背中を大丈夫かとさする博和に、彼が怪訝そうな顔をして問いかける。
「どうしたって、さっき言った通り」
彼が何故そのような質問をするのか分からないのだろう、博和はきょとんとした表情をする。
「ごほっ…いきなりそんな告白をされても、正直驚くか呆れるかしか反応出来ないんだけど、私たちは。」
むせてひりひりする喉を押さえながら博和を見ると、彼は今にも泣きそうな顔をしていた。
彼の方を見る。彼は私に向かって、しょうがないと言った様に苦笑した。
私も苦笑する。自分の幼馴染は、どうやら青い春の真っ最中らしい。
「そう言われても、アドバイス出来るほど恋愛経験がある訳じゃないからなんとも」
「嘘つけ!お前この前も告白されてたろ!!」
親切に答えてくれた彼に向って、失礼にも指をさして反論する博和。
何時もならそんな事をする博和を諌めるのだが、その言葉を聞いた私の心はズキンと音を立てる。
「それとお前の悩みは違うだろ」
怒って近づいてきた博和の顔を手で押さえて阻止する彼は、ちらりと私の方を見た。
視線があった瞬間、さっきとは違う音を心が立てた。
ドクン
彼の視線を追った博和も私に視線を定め、再び質問してきた。
「楓はどう思う?」
「え、何が?」
上手く思考が働かない私は博和に質問を質問で返す。
「トモが恋愛経験豊富かそうじゃないか」
「主旨が変わってる」
パコリと彼に頭を叩かれた博和は、不貞腐れる。
「トモくんの恋愛経験が豊富かどうか、私には分からない。けど、告白の回数が多い=恋愛経験豊富っていうヒロの方程式は間違ってると思うよ」
彼と幼馴染のやり取りに苦笑しながら、私は答えた。
「それじゃあ、俺は誰に相談すればいいんだー!」
叫びながら机に突っ伏した博和は、その後も悲しげな声を上げ続けた。
彼は呆れた様に博和を見ていたが、優しく切なげな表情になり、そっと言葉を紡ぎ出した。
「俺はお前の望まない言葉しか、言えない」
「何だよ、それ」
彼の言葉に博和はムッと拗ねた表情のまま、突っ伏していた顔を上げた。
「俺が恋愛関係ではっきりと言えるのは」
そこで言葉を切った彼は、ちらりと再び私を見た。
彼の紡ぎ出そうとしている言葉がどんなものか身構えていた私は…ただ、心を堅く閉ざしていた。
彼から告げられる言葉に、動揺しないように。涙を流してしまわぬように。
だから、彼が私を見ても心は音を立てなかった。
だから、彼の心が音を立てていたのも、気づかなかった。
「本気の恋は叶わない。しんどいだけだ」
心が音を立てながら紡ぎ出した、彼の心の悲鳴。
悲しそうな目をしながら微笑む彼から私は目線を外せなかった。
ああ、心がズキンズキンと音を立てる。
この時、私は決めたのだ。
心乱されるほど惹かれる人へ、その想いを伝えはしないと。
それを貫き始めて再び季節が一廻りした今。
彼は、私に想いを告げる。
本気の恋は叶わないって、あの人が言ったから
(今さら好きだと言われても)
2010/04/22
title:確かに恋だった
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