「お久しぶりです」
 久しぶりに訪れてみると、彼女が外に出ており、上を見上げていた。
 声をかけると、彼女はこちらを見、驚いたように目を見開いたあと、花が咲きほころぶように笑った。
「お久しぶりです。最近お忙しいみたいで、こちらにおいでになっていませんでしたけど、何かあったのですか?」
 肩をすくめて苦笑する。
「以前あったときのあなたの"お願い"を叶える為に奮闘していたので、なかなかこちらに来る時間が取れなかったのですよ」
 すると、彼女は笑った。
「それは、ご苦労様です。…それで、その"お願い"はどうなりましたか?」
 それまで浮かべていた笑顔を瞬時に消し、無表情で彼女は言う。それが痛ましく、心に罪悪感が沸々と湧き上がる。
 それを打ち払うように再び言葉をつむぐ。
「呪は完成しました。じきに彼らから全ての記憶が消され、"星"に還るでしょう」
「そうですか」
 そう言うと、彼女は再び上を、枝葉向こうの夜空を見上げた。
「これでよかったのですか?」
 無意識に言葉が漏れていた。そっさに口を抑える。そんな事をしたところで、放たれた言葉を消すことはできない。
 再びこちらに視線を戻した彼女の表情は予想道理、静かな水面を連想させるような静かで淋しいものだった。
「私の存在を覚えていることで少なからず彼らに負の感情が生まれるのならば、それを取り除かなければなりません。まだ、彼が弱っているのにこれ以上負荷をかけるような要素は、どれほど小さくとも」



  Novel