廊下を歩いているとかすかに歌声が聞こえてくる。
 気になって歌が聞こえる場所へと向かうと一つの部屋に行きついた。
 この部屋の主が誰であるかを思い出し、誰が何のために歌っているのかその理由に行き当たる。今の時間帯ならちょうどあれだろう。
 ゆっくりと音をたてないように開いている扉に近づき中の様子を見ると、予想道理の状況であった。
 窓際の暖かな日差しが降り注ぐ場所に置いてあるゆったりと腰掛けることができる椅子に座りながら一人の女性が赤子を抱いて子守唄を歌っていた。
 こちらの気配に気づいた女性は歌を歌うのを止めこちらを向く。
 訪問者が誰だかわかった彼女は扉に立ったままのこちらに向かって手招きをする
「巡回終わったんですか?シズナさん」
「ええ、今日もいつもどおり街は平穏でした」
 肩をすくめ、おどけたように言う。そうしないと彼女は思い悩むから。
「彼は、今どこに」
 彼、と聞かれ、一瞬誰のことを言っているのかわからなかったが、すぐに一人の人物を思い出す。
「ああ。今、団員の稽古見てもらってる」
 そう言うと彼女は小さく、そうですか、と言い己が抱いている赤子を見る。
 その顔が寂しそうに見えたのは気のせいだっただろうか。
「シズナさん、1つお願いがあります」
 再び彼女は顔を上げ真っ直ぐ見つめてくる。
「私にできることならば」
「これからも、彼を支えてあげてください。例え何が起ころうとも」


 言われたことに驚きながらもその時私は深く考えず「もちろん」と答えた。
 彼とはいくつのも戦場を共に闘った仲間だ。支えあうのは仲間として当たり前である。
 でも、彼女がこの時言った『支え』とはその時私が思っていた意味とは違うものだということに気づいた時には既に、私の親友は私を裏切り私達の前からいなくなった後のことだった。



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