あの作品を思う存分堪能した後、茜と蘇芳はまた別々に展示室を周り自分たちが満足するまで展示品を楽み、最後の展示品を見終わると展示室を出た。
展示室を出て直ぐの所に売店があり、茜はそこで特別展の図録を買う。ずっしりと重い図録を手に入れて茜は上機嫌である。この図録の中に、茜と蘇芳が長い間眺めていたあの作品も入っていると思うと頬が緩んでしまう。
浮かれながら館内に入る前に決めていた集合場所に向かうと、そこには既に蘇芳がいた。彼の姿を見た茜は先程まで浮ついていた気持ちが急降下する。
まるで待ち合わせの時の様だと茜は焦り、蘇芳の側まで行くと彼女はお待たせしてすみませんと彼に謝った。
そんな彼女に蘇芳は問題ないと笑顔で返す。
蘇芳を待たせてしまった事を申し訳なく思うせいか、茜の表情は暗い。そんな彼女を蘇芳は見つめる。
「茜ちゃん、楽しかった?」
彼の問いに、茜は目を見開いたが、直ぐに素直な気持ちを言葉にした。
「はい、とても楽しかったです」
頬を赤らめて嬉しそうに笑みを浮かべる彼女の表情を見て、蘇芳は柔らかい雰囲気を醸し出し、優しい声音で良かったと言う。
「俺もすごい楽しめた。さて、丁度お昼時だし、どこか店に入って昼食を取ろうか」
蘇芳の提案に茜は頷いて同意を示す。
取り合えず茜と蘇芳は美術館を出た。歩きながら2人は何を食べたいかを話し合う。といっても、蘇芳が茜の希望を聞き、彼女が悩みながらパスタを食べたいと答えただけなのだが。
美術館近くの駅周辺で適当なパスタ店に入り、昼食を楽しんだ。頼んだパスタを食べながら、お互いに特別展の展示物についての感想を言い合う。茜はこの、好きな事や気になる事について意見を交換し合う時間が好きだ。
「こんな風に誰かと美術館に行って、展示品について語るなんて何年ぶりだろう」
嬉しさに少しの寂しさを混ぜた様な表情で蘇芳が言う。
「いつもはお一人ですか?」
「一緒に行ってくれる友人がいなくて」
苦笑を浮かべて蘇芳は言う。
「それじゃあ、私が時々、今日みたいにお誘いしても良いですか?」
身を乗り出して茜は蘇芳に提案する。言ってしまってから自分の顔が熱くなるのを感じた。きっと顔が赤くなっているだろうと思いつつ、茜はじっと蘇芳を見つめる。
茜の提案に蘇芳は目を見張ったが、直ぐにいつもの柔らかい表情に戻す。
「喜んで」
彼の返答に茜は呆けた顔をした。
蘇芳が無下に断る事はあり得ないと思っていたが、それでも良い返事が返って来て茜は驚いていた。
そして直ぐに彼女は笑みを浮かべる。
「ふふ、楽しみです」
本当に嬉しそうに彼女は笑った。
その笑顔を見て蘇芳は心が暖かくなった。そしてその暖かくなった心の隅でちくりとした痛みが生まれたが、彼はそれを気にする事なく黙殺した。
いや、彼は無意識のうちに痛みを無かった事にした。
展示室を出て直ぐの所に売店があり、茜はそこで特別展の図録を買う。ずっしりと重い図録を手に入れて茜は上機嫌である。この図録の中に、茜と蘇芳が長い間眺めていたあの作品も入っていると思うと頬が緩んでしまう。
浮かれながら館内に入る前に決めていた集合場所に向かうと、そこには既に蘇芳がいた。彼の姿を見た茜は先程まで浮ついていた気持ちが急降下する。
まるで待ち合わせの時の様だと茜は焦り、蘇芳の側まで行くと彼女はお待たせしてすみませんと彼に謝った。
そんな彼女に蘇芳は問題ないと笑顔で返す。
蘇芳を待たせてしまった事を申し訳なく思うせいか、茜の表情は暗い。そんな彼女を蘇芳は見つめる。
「茜ちゃん、楽しかった?」
彼の問いに、茜は目を見開いたが、直ぐに素直な気持ちを言葉にした。
「はい、とても楽しかったです」
頬を赤らめて嬉しそうに笑みを浮かべる彼女の表情を見て、蘇芳は柔らかい雰囲気を醸し出し、優しい声音で良かったと言う。
「俺もすごい楽しめた。さて、丁度お昼時だし、どこか店に入って昼食を取ろうか」
蘇芳の提案に茜は頷いて同意を示す。
取り合えず茜と蘇芳は美術館を出た。歩きながら2人は何を食べたいかを話し合う。といっても、蘇芳が茜の希望を聞き、彼女が悩みながらパスタを食べたいと答えただけなのだが。
美術館近くの駅周辺で適当なパスタ店に入り、昼食を楽しんだ。頼んだパスタを食べながら、お互いに特別展の展示物についての感想を言い合う。茜はこの、好きな事や気になる事について意見を交換し合う時間が好きだ。
「こんな風に誰かと美術館に行って、展示品について語るなんて何年ぶりだろう」
嬉しさに少しの寂しさを混ぜた様な表情で蘇芳が言う。
「いつもはお一人ですか?」
「一緒に行ってくれる友人がいなくて」
苦笑を浮かべて蘇芳は言う。
「それじゃあ、私が時々、今日みたいにお誘いしても良いですか?」
身を乗り出して茜は蘇芳に提案する。言ってしまってから自分の顔が熱くなるのを感じた。きっと顔が赤くなっているだろうと思いつつ、茜はじっと蘇芳を見つめる。
茜の提案に蘇芳は目を見張ったが、直ぐにいつもの柔らかい表情に戻す。
「喜んで」
彼の返答に茜は呆けた顔をした。
蘇芳が無下に断る事はあり得ないと思っていたが、それでも良い返事が返って来て茜は驚いていた。
そして直ぐに彼女は笑みを浮かべる。
「ふふ、楽しみです」
本当に嬉しそうに彼女は笑った。
その笑顔を見て蘇芳は心が暖かくなった。そしてその暖かくなった心の隅でちくりとした痛みが生まれたが、彼はそれを気にする事なく黙殺した。
いや、彼は無意識のうちに痛みを無かった事にした。