蘇芳との約束の日。
待ち合わせの場所に茜が行くと、既に蘇芳がいた。
「蘇芳さん」
茜は彼の姿を見つけると小走りで近づき、あと数メートルという所まで行くと、蘇芳に声を掛けた。
茜の声が届くと、蘇芳が茜の方を見る。彼は笑みを浮かべて茜を迎えた。
「こんにちは、茜ちゃん」
「こんにちは」
蘇芳の笑顔を見ると、茜はいつもつられて笑顔になる。それは茜が彼に惹かれる要因の一つである。
挨拶をすると2人は直ぐに美術館へ向かった。
茜は美術館へ行くまでに、先日緑に言われた事を蘇芳に聞いておかなければならなかった。隣を歩く蘇芳の様子を気にしつつ、茜は口を開いた。
「蘇芳さん。実は、私は友達と美術館などを見に行く時それぞれ自分のペースで好きに眺めているんです。・・・今日もそのようにしようと思うんですが」
最後をどう締めくくれば良いのか分からず、茜は言いよどんだ。
茜の次の言葉が出てこないところで蘇芳が話し始める。
「そうだね。俺も自分の好きに見るのが一番だと思うよ。そうなると、出た後の待ち合わせ場所を決めておいた方が良いね」
蘇芳が自分の提案をすんなりと受け入れてくれた事に、茜は安堵した。
美術館へ行く道すがら、見終わった後の待ち合わせ場所やこれから見に行く特別展にはどんなものが展示されているのかなどを、2人は話した。
蘇芳との会話は穏やかで、他の人の様にがちがちに緊張してしまう事がない。もちろん、最初の頃は何を話したら良いのか分からず、話しかける事を億劫だと感じる時もあった。だが、今は自然と会話の話題が出てくる。それに、会話が思いつかないときに落ちる沈黙は、茜にとって居心地の悪いものではない。
美術館内は特別展をしているためか多くの人が訪れているが、展示品を見るのが困難というほどではなく、一作品ずつをじっくりと見る事が出来る。
展示品に集中してしまうと、茜は自分の世界の中に入ってしまった。
最低限、人の邪魔にならないようにする注意は向けているが、それ以外は全て作品へ意識を向ける。
ある作品の前に足を止めてどれだけ経った頃だっただろうか。その作品が気に入った茜は食い入るようにじっと見つめていた。
「この作品、気に入った?」
直ぐ近くで聞こえた問いかけに茜は驚き、声のした方を向く。するとそこには蘇芳が立っていた。
「驚かしちゃったかな。ごめん」
茜は首を振って蘇芳の言葉を否定した。
「この作品、寒色系が多く使われているのに、冷たい印象を受けないんです。むしろすごく優しい」
茜が感じた作品の印象を聞きながら、蘇芳もそれを眺める。
しばらくの間、2人で作品を静かに眺めていた。
待ち合わせの場所に茜が行くと、既に蘇芳がいた。
「蘇芳さん」
茜は彼の姿を見つけると小走りで近づき、あと数メートルという所まで行くと、蘇芳に声を掛けた。
茜の声が届くと、蘇芳が茜の方を見る。彼は笑みを浮かべて茜を迎えた。
「こんにちは、茜ちゃん」
「こんにちは」
蘇芳の笑顔を見ると、茜はいつもつられて笑顔になる。それは茜が彼に惹かれる要因の一つである。
挨拶をすると2人は直ぐに美術館へ向かった。
茜は美術館へ行くまでに、先日緑に言われた事を蘇芳に聞いておかなければならなかった。隣を歩く蘇芳の様子を気にしつつ、茜は口を開いた。
「蘇芳さん。実は、私は友達と美術館などを見に行く時それぞれ自分のペースで好きに眺めているんです。・・・今日もそのようにしようと思うんですが」
最後をどう締めくくれば良いのか分からず、茜は言いよどんだ。
茜の次の言葉が出てこないところで蘇芳が話し始める。
「そうだね。俺も自分の好きに見るのが一番だと思うよ。そうなると、出た後の待ち合わせ場所を決めておいた方が良いね」
蘇芳が自分の提案をすんなりと受け入れてくれた事に、茜は安堵した。
美術館へ行く道すがら、見終わった後の待ち合わせ場所やこれから見に行く特別展にはどんなものが展示されているのかなどを、2人は話した。
蘇芳との会話は穏やかで、他の人の様にがちがちに緊張してしまう事がない。もちろん、最初の頃は何を話したら良いのか分からず、話しかける事を億劫だと感じる時もあった。だが、今は自然と会話の話題が出てくる。それに、会話が思いつかないときに落ちる沈黙は、茜にとって居心地の悪いものではない。
美術館内は特別展をしているためか多くの人が訪れているが、展示品を見るのが困難というほどではなく、一作品ずつをじっくりと見る事が出来る。
展示品に集中してしまうと、茜は自分の世界の中に入ってしまった。
最低限、人の邪魔にならないようにする注意は向けているが、それ以外は全て作品へ意識を向ける。
ある作品の前に足を止めてどれだけ経った頃だっただろうか。その作品が気に入った茜は食い入るようにじっと見つめていた。
「この作品、気に入った?」
直ぐ近くで聞こえた問いかけに茜は驚き、声のした方を向く。するとそこには蘇芳が立っていた。
「驚かしちゃったかな。ごめん」
茜は首を振って蘇芳の言葉を否定した。
「この作品、寒色系が多く使われているのに、冷たい印象を受けないんです。むしろすごく優しい」
茜が感じた作品の印象を聞きながら、蘇芳もそれを眺める。
しばらくの間、2人で作品を静かに眺めていた。