第9話 友人との会話

「あやめ、最近雰囲気変わったよね」
 ほたるの言葉に私は首を傾げた。
 自分では日々変わらず過ごしてきたつもりなので、変化したと言われてもピンとこない。
 今日は休日でほたると学校近くにあるショッピングセンターに、夏にある祭に行く際に着ていく浴衣を買うためにここに来た。
 といっても私は自分の物を数点持っているので、今回はほたるの物を買うのが目的だ。
 買い物は既に終わり、ショッピングセンター内にあるフードコートで飲物を買って休憩している最中である。
「なんか明るくなったよね。嬉しい事でもあったの?」
 あやめの言い方だと、以前の自分は暗い印象を周りに与えていたということである。
 明るい性格だと胸を張って言えないが、暗いと言われるほど人との接触を断ってはいないと思っていたのだが。
「私、暗かったかしら」
「違う違う。・・・何て言うのかな。2年になってからあやめ、時々すごく悲しそうに遠くを見てる時あったけど、最近そういうところ見なくなったから」
 ほたるの言葉に私は息を飲んだ。
 苦笑いをして告げるほたるを見て、私は気づかない間に彼女に心配を掛けていたのだと知った。
 気づいていたのに、無理に原因を聞き出そうとせずに待っていてくれた彼女に、私はありがたいと思った。
 昔から、人に自分の気持ちをさらけ出すのが苦手だった。特に心の柔らかいところにある思いを打ち明けることが。
 だから他人との付き合いは殆どなく、友達と言える関係も無いに等しかった。
 だが、高校でほたるに出会った。
 彼女は自然に私の思いを引き出してくれる。私が自覚しないうちに私の重りを下ろしてくれる。そんなすごい人がほたるだ。
「良い事・・・久しぶりに蛍を見に行ったの」
「蛍って、公園の?」
 ほたるは緋華里さん宅がある地域に住んでいる。その事実を知った時、意外な接点があったのだと驚いた。もしかしたらどこかですれ違っていたかもしれない、そう考えると不思議だ、と2人で笑って話した。
「うん」
「へえ。私は中学の時以来見に行ってないな。博都さんと見に行ったの?」
 ほたるは私と博都さんの関係を知っている。私が話した。
 彼女の問いに私は首を振った。
「あの人じゃないわ。緋華里さん達と村上くん」
 私の言葉にほたるが目を見開いた。
「村上くんて、あの?」
「同じ高校に通う同学年の村上くん」
 同学年に村上という名の男子生徒は1人しかいない。
 なかなか私が行ったことが脳に伝わらなかったのだろうか、ほたるは少しの間硬直したように私を見ていた。
 しばらくすると、ほたるは額に手を当てて深く息を吐いた。
「そう、彼と行ったの」
「うん。そういえば、彼も緋華里さん家の近くに住んでいるみたいだから、ほたるの家に近いかもしれないわね」
「ああ、そうかもね」
 何やらほたるは疲れ切った様子だ。
 大丈夫かとほたるに問うと、彼女は何でもないと言い再び深く息を吐く。
 何となく彼女がこうなってしまった理由が何となく予想出来るので、私は苦笑するだけでこれ以上深く追求しなかった。
 藪をつついて蛇を出さないように。
彼女に心配をかけてしまうのは分かっている。でも、私は、この思いを捨てたくない。

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