第7話 週末の思い掛け無い出来事
週末、私は1人上谷戸家を訪れていた。
、今は縁側に座ってのんびりと過ごしている。
外界と隔てている別の空間がこの家の周辺を囲っているかのような錯覚を覚える。ゆったりと過ごすことの出来るこの場所が私は好きで、ここに連れてきてもらってから幾度と足を運んだ。
「あやめちゃんお疲れ様。お茶どうぞ」
私は後ろへ顔を向ける。緋華里さんが正座で座り、お茶とお菓子を乗せたお盆を床に置く。
「ありがとうございます」
緋華里さんが差し出してくれたお茶を受け取ると、二人で外を眺める。
しばらくそうしていると、緋華里さんが静かに私に尋ねた。
「あやめちゃん、何かあったの?」
私は緋華里さんの質問に驚いき、彼女を見る。
「寂しそうな顔をして外を眺めていたから」
そんな表情をしていたのだろうかと私は両手を頬に当てた。
緋華里さんが柔らかく微笑む。
「もうすぐ、あやめちゃんの憂いを取り除いてくれる人が来るわ」
緋華里さんは私から視線を外し、玄関の方をへそれを移す。彼女の言葉に私は首をかしげつつも、彼女につられる様に玄関の方を見た。緋華里さんは直ぐに視線を玄関の方から外したが、私は視線を逸らさずにぼんやりと見続ける。
少しの間、私達は一言も喋らずに静かに誰かが現れるのを待つ。
玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はーい」
緋華里さんは明るい声で返事をしながら立ちあがり、楽しそうに玄関の方へ向かって行った。私は視線を元見ていた方向に戻して、緋華里さんが戻って来るのを待った。彼女は私の憂いを取り除いてくれる人が来ると言っていたが、その事を私は本気にしていなかった。
だから彼が私の目の前に現れた時、大変驚いた。
「あそこの縁側で少し待っていてくれる?直ぐに用意してくるから」
「はい」
聞こえてきた声に私は勢いよく振り返った。
緋華里さんが言っていた事が本当だったのだ。今、私の前に私の憂いを簡単に取り除くことの出来る人がいる。
「あれ、柴田さんだ。こんにちわ」
「こんにちわ・・・村上くんはどうしてここに?」
「家の手伝いで届け物」
「お家の?」
「そう。父親の実家が農家で、採れた野菜の配達。柴田さんは?」
話をしながら少し間を空けて私の隣に座った。
「私は」
どのようにして相手に答えたら良いのか、私は悩んだ。
勝手に事情を話してしまっても良いのだろうか。困っていると私の代わりに緋華里さんが説明してくれた。
「あやめちゃんは神楽のお稽古に来てたの」
緋華里さんがおぼんの上に湯呑みを乗せて戻って来た。
「ありがとうございます」
湯呑みを置くと、緋華里さんはごゆっくりと言い残して台所のほうへ戻って行った。
「神楽って祭の?」
「うん。・・・両親と緋華里さんが知り合いで、その関係で」
「ふーん」
もっと詳しく質問されるかと思ったが、彼は相槌を打っただけで何も言わず湯呑みを持ってお茶を飲み始めた。
二人で外を見ながらお茶を飲む。
今の状況が不自然な気が全くせず、むしろこうしていることが当たり前の様な心地になった。彼が近くにいても私は他の人のように警戒しない。これは彼の天性の才能なのだろうか。それとも私にとって彼は特別なのだろうか。
これ以上深く考えない事にした。そうすれば、きっと私は彼の近くに行くことが出来なくなってしまうような気がする。
思考を他の方へ向かわせる。
緋華里さんが言っていたように、私の憂いを取り除くことが出来る人が現れたのだ。この機会に
「一緒に帰った時の蛍を見に行く約束、覚えている?」
「もちろん」
「もう、蛍を見ることが出来るのだけれど、いつ、見に行く?」
「うーん。直ぐに!と言いたいところだけど、柴田さんの都合もある事だし」
彼はどうしたものかと悩み始めた。
私は彼の方を見て言う。
「直ぐにって、今から?私は別にかまわないけれど」
「本当に!?それじゃあ今日の夜行こう!」
彼がすごく嬉しそうに笑いながら言った。こんな事で喜んでくれたことに私も嬉しくなった。
「蛍を見に行くの?」
いつの間にか戻って来たのか、少し離れたところに緋華里さんが座り、お菓子を楽しんでいたようだった。
「うわ、びっくりした。緋華里さんいつの間に戻ってきてたんですか」
「少し前に。で、二人で蛍を見に行くの?」
彼女の問いに私は素直に頷いた。すると隣の方から大きく息を吐く音が聞こえたのでそちらを見てみると、彼が困った顔をしていた。何故そのような顔をするのだろうかと首を傾げると緋華里さんが笑った。
「大くんはあやめちゃんと二人だけで行きたかったみたいね。だけど、高校生と言っても二人だけで夜遅くに出かけさせるわけにはいかないから私たちも一緒に行くわ」
「良いんですか?」
「ええ。もちろん二人の邪魔をするつもりはないから」
緋華里さんの言葉にも首をかしげつつも、彼に蛍を見せてあげられる事が嬉しかった。
彼の方を見ると頭を抱えていた。どうしたのだろうと焦って緋華里さんへ助けを求めると、笑っているだけで何も言ってくれない。
仕方ないので彼に大丈夫かと問うと、何でもないという返事しか帰ってこなかった。
どうしたら良いのだろうかと1人焦っていると、彼がこちらを向いてじっと私を見つめてきた。動揺しながら私も彼をじっと見つめると、不意に彼が笑った。どうして笑うのかとむくれると今度は声を出して彼は笑った。
、今は縁側に座ってのんびりと過ごしている。
外界と隔てている別の空間がこの家の周辺を囲っているかのような錯覚を覚える。ゆったりと過ごすことの出来るこの場所が私は好きで、ここに連れてきてもらってから幾度と足を運んだ。
「あやめちゃんお疲れ様。お茶どうぞ」
私は後ろへ顔を向ける。緋華里さんが正座で座り、お茶とお菓子を乗せたお盆を床に置く。
「ありがとうございます」
緋華里さんが差し出してくれたお茶を受け取ると、二人で外を眺める。
しばらくそうしていると、緋華里さんが静かに私に尋ねた。
「あやめちゃん、何かあったの?」
私は緋華里さんの質問に驚いき、彼女を見る。
「寂しそうな顔をして外を眺めていたから」
そんな表情をしていたのだろうかと私は両手を頬に当てた。
緋華里さんが柔らかく微笑む。
「もうすぐ、あやめちゃんの憂いを取り除いてくれる人が来るわ」
緋華里さんは私から視線を外し、玄関の方をへそれを移す。彼女の言葉に私は首をかしげつつも、彼女につられる様に玄関の方を見た。緋華里さんは直ぐに視線を玄関の方から外したが、私は視線を逸らさずにぼんやりと見続ける。
少しの間、私達は一言も喋らずに静かに誰かが現れるのを待つ。
玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はーい」
緋華里さんは明るい声で返事をしながら立ちあがり、楽しそうに玄関の方へ向かって行った。私は視線を元見ていた方向に戻して、緋華里さんが戻って来るのを待った。彼女は私の憂いを取り除いてくれる人が来ると言っていたが、その事を私は本気にしていなかった。
だから彼が私の目の前に現れた時、大変驚いた。
「あそこの縁側で少し待っていてくれる?直ぐに用意してくるから」
「はい」
聞こえてきた声に私は勢いよく振り返った。
緋華里さんが言っていた事が本当だったのだ。今、私の前に私の憂いを簡単に取り除くことの出来る人がいる。
「あれ、柴田さんだ。こんにちわ」
「こんにちわ・・・村上くんはどうしてここに?」
「家の手伝いで届け物」
「お家の?」
「そう。父親の実家が農家で、採れた野菜の配達。柴田さんは?」
話をしながら少し間を空けて私の隣に座った。
「私は」
どのようにして相手に答えたら良いのか、私は悩んだ。
勝手に事情を話してしまっても良いのだろうか。困っていると私の代わりに緋華里さんが説明してくれた。
「あやめちゃんは神楽のお稽古に来てたの」
緋華里さんがおぼんの上に湯呑みを乗せて戻って来た。
「ありがとうございます」
湯呑みを置くと、緋華里さんはごゆっくりと言い残して台所のほうへ戻って行った。
「神楽って祭の?」
「うん。・・・両親と緋華里さんが知り合いで、その関係で」
「ふーん」
もっと詳しく質問されるかと思ったが、彼は相槌を打っただけで何も言わず湯呑みを持ってお茶を飲み始めた。
二人で外を見ながらお茶を飲む。
今の状況が不自然な気が全くせず、むしろこうしていることが当たり前の様な心地になった。彼が近くにいても私は他の人のように警戒しない。これは彼の天性の才能なのだろうか。それとも私にとって彼は特別なのだろうか。
これ以上深く考えない事にした。そうすれば、きっと私は彼の近くに行くことが出来なくなってしまうような気がする。
思考を他の方へ向かわせる。
緋華里さんが言っていたように、私の憂いを取り除くことが出来る人が現れたのだ。この機会に
「一緒に帰った時の蛍を見に行く約束、覚えている?」
「もちろん」
「もう、蛍を見ることが出来るのだけれど、いつ、見に行く?」
「うーん。直ぐに!と言いたいところだけど、柴田さんの都合もある事だし」
彼はどうしたものかと悩み始めた。
私は彼の方を見て言う。
「直ぐにって、今から?私は別にかまわないけれど」
「本当に!?それじゃあ今日の夜行こう!」
彼がすごく嬉しそうに笑いながら言った。こんな事で喜んでくれたことに私も嬉しくなった。
「蛍を見に行くの?」
いつの間にか戻って来たのか、少し離れたところに緋華里さんが座り、お菓子を楽しんでいたようだった。
「うわ、びっくりした。緋華里さんいつの間に戻ってきてたんですか」
「少し前に。で、二人で蛍を見に行くの?」
彼女の問いに私は素直に頷いた。すると隣の方から大きく息を吐く音が聞こえたのでそちらを見てみると、彼が困った顔をしていた。何故そのような顔をするのだろうかと首を傾げると緋華里さんが笑った。
「大くんはあやめちゃんと二人だけで行きたかったみたいね。だけど、高校生と言っても二人だけで夜遅くに出かけさせるわけにはいかないから私たちも一緒に行くわ」
「良いんですか?」
「ええ。もちろん二人の邪魔をするつもりはないから」
緋華里さんの言葉にも首をかしげつつも、彼に蛍を見せてあげられる事が嬉しかった。
彼の方を見ると頭を抱えていた。どうしたのだろうと焦って緋華里さんへ助けを求めると、笑っているだけで何も言ってくれない。
仕方ないので彼に大丈夫かと問うと、何でもないという返事しか帰ってこなかった。
どうしたら良いのだろうかと1人焦っていると、彼がこちらを向いてじっと私を見つめてきた。動揺しながら私も彼をじっと見つめると、不意に彼が笑った。どうして笑うのかとむくれると今度は声を出して彼は笑った。
その笑顔に胸が苦しくなったのは、私だけの秘密。