第6話 知らない事の危険性
村上くんと蛍を見に行く約束をした。
だが、私と彼の関係が急激に接近したという事もなく、今まで通り挨拶や少し話をする程度の接触しかない。
彼との関係は変わらなかったが、私自身に微妙な変化をもたらした。
それがはっきりとした形で私の表に現れるのはもう少し後になるのだが、それでも確実に私を変えていった。
村上くんと約束をして数日後、近くの川で蛍が舞い始めた。
それを知った私は彼との約束を果たそうとしたのだが、この時初めて彼個人への連絡手段を知らない事に気がついた。
彼の携帯電話の番号、メールアドレスはもちろん、自宅の電話番号も知らない。
学校で彼に直接伝えるという手段しかない。そのことに私は焦った。
以前なら気にせず村上くんに話すことが出来た。だが、今は彼に関する情報が、私にそうさせることを躊躇わせる。
それを聞いたのは学校の昼休みでの出来事だった。
「あやめってばいつの間に村上くんと仲良くなったの?」
ある日の昼休み、ほたるにそう聞かれた。
彼と私は親しい間柄なのだろうかと疑問を感じつつ、彼と話す様になった切っ掛けなどを簡単に彼女に説明した。
すると彼女は呆れた顔で私を見る。
「どうしてそんな顔をするの?」
首を傾げて聞くと彼女は溜息をつく。
「高校に入った頃同じ入学生にイケメンがいるって話題になったのを覚えてる?」
そういえばそんなことがあった様な。私は当時の事を思い出そうと試みるもぼんやりとしか情報を引き出せない。
「はっきりと覚えていないけれど」
「まあ、そうだろうね。で、その噂のイケメンが村上くんで、彼は未だに女子に人気があるの」
「そうなの?」
「そうなの!で、当人の村上くんはそのことにあまり関心がないみたい。何かあると女子が騒ぐのを迷惑そうにしてるし」
「ほたるは村上くんと親しいの?知らなかった」
彼の事を私以上に知っていることから私はほたると彼が親しいのだと思った。だが、彼女と村上くんが話しているところを見た覚えがない。驚きながら言うと、ほたるは私の言葉に首を振った。
「村上くん本人と話したことはないよ。クラスが一緒になったことないし、接点がないもん」
「え?」
言われたことを一瞬で理解できず、私は再び首を傾げた。
「話をしたことがない私でさえ彼に関する簡単な情報を得られるほど、彼はこの学校で有名な人ってこと」
目を大きくして驚いている私を見て、ほたるは苦笑した。
「そういうことを気にしないのは、あやめの良いところだし、私は好きだよ。でも、気を付けないと受けなくていい攻撃で傷を負う可能性は知っておいて」
少し間を置いて私はほたるに尋ねる。
「それは、彼と親しくなることで私が傷つくという事?」
「好きな人に近づく異性は全て敵っていう人もいるから。彼との距離を覚られないよう、情報を集めて上手に立ち回る必要があるね」
ほたるははっきりと私に告げる。
彼との接触を持つなら知らなければならないと。
この時私は自分自身に尋ねた。
敵を作ってしまう危険を冒してまで彼に近づく利点はあるだろうかと。
そう考えた時、あの電車で交わした約束を思い出した。
あの約束を叶える。それだけで十分だと私は思った。
それだけで、十分だと何故か思った。
だからといって無暗に行動を起こしてはいらぬ争いを生んでしまう。ほたるの話を聞く前は、彼と話す際に周りにいる人の事を気にしなかった。だが、今は違う。気を付けなければならない事、見なければならない事を知ってしまうと今までと同じ行動が出来なくなってしまった。
挨拶やちょっとした会話は今まで通り出来るのだが、肝心な事を伝えられず、どうしたものかと悩んでいるうちに蛍が舞い始めて数日経った。
このままでは蛍が見られる時期が終わってしまう。
そう焦っていたある日、私は再び彼と2人きりで話す機会を得た。
だが、私と彼の関係が急激に接近したという事もなく、今まで通り挨拶や少し話をする程度の接触しかない。
彼との関係は変わらなかったが、私自身に微妙な変化をもたらした。
それがはっきりとした形で私の表に現れるのはもう少し後になるのだが、それでも確実に私を変えていった。
村上くんと約束をして数日後、近くの川で蛍が舞い始めた。
それを知った私は彼との約束を果たそうとしたのだが、この時初めて彼個人への連絡手段を知らない事に気がついた。
彼の携帯電話の番号、メールアドレスはもちろん、自宅の電話番号も知らない。
学校で彼に直接伝えるという手段しかない。そのことに私は焦った。
以前なら気にせず村上くんに話すことが出来た。だが、今は彼に関する情報が、私にそうさせることを躊躇わせる。
それを聞いたのは学校の昼休みでの出来事だった。
「あやめってばいつの間に村上くんと仲良くなったの?」
ある日の昼休み、ほたるにそう聞かれた。
彼と私は親しい間柄なのだろうかと疑問を感じつつ、彼と話す様になった切っ掛けなどを簡単に彼女に説明した。
すると彼女は呆れた顔で私を見る。
「どうしてそんな顔をするの?」
首を傾げて聞くと彼女は溜息をつく。
「高校に入った頃同じ入学生にイケメンがいるって話題になったのを覚えてる?」
そういえばそんなことがあった様な。私は当時の事を思い出そうと試みるもぼんやりとしか情報を引き出せない。
「はっきりと覚えていないけれど」
「まあ、そうだろうね。で、その噂のイケメンが村上くんで、彼は未だに女子に人気があるの」
「そうなの?」
「そうなの!で、当人の村上くんはそのことにあまり関心がないみたい。何かあると女子が騒ぐのを迷惑そうにしてるし」
「ほたるは村上くんと親しいの?知らなかった」
彼の事を私以上に知っていることから私はほたると彼が親しいのだと思った。だが、彼女と村上くんが話しているところを見た覚えがない。驚きながら言うと、ほたるは私の言葉に首を振った。
「村上くん本人と話したことはないよ。クラスが一緒になったことないし、接点がないもん」
「え?」
言われたことを一瞬で理解できず、私は再び首を傾げた。
「話をしたことがない私でさえ彼に関する簡単な情報を得られるほど、彼はこの学校で有名な人ってこと」
目を大きくして驚いている私を見て、ほたるは苦笑した。
「そういうことを気にしないのは、あやめの良いところだし、私は好きだよ。でも、気を付けないと受けなくていい攻撃で傷を負う可能性は知っておいて」
少し間を置いて私はほたるに尋ねる。
「それは、彼と親しくなることで私が傷つくという事?」
「好きな人に近づく異性は全て敵っていう人もいるから。彼との距離を覚られないよう、情報を集めて上手に立ち回る必要があるね」
ほたるははっきりと私に告げる。
彼との接触を持つなら知らなければならないと。
この時私は自分自身に尋ねた。
敵を作ってしまう危険を冒してまで彼に近づく利点はあるだろうかと。
そう考えた時、あの電車で交わした約束を思い出した。
あの約束を叶える。それだけで十分だと私は思った。
それだけで、十分だと何故か思った。
だからといって無暗に行動を起こしてはいらぬ争いを生んでしまう。ほたるの話を聞く前は、彼と話す際に周りにいる人の事を気にしなかった。だが、今は違う。気を付けなければならない事、見なければならない事を知ってしまうと今までと同じ行動が出来なくなってしまった。
挨拶やちょっとした会話は今まで通り出来るのだが、肝心な事を伝えられず、どうしたものかと悩んでいるうちに蛍が舞い始めて数日経った。
このままでは蛍が見られる時期が終わってしまう。
そう焦っていたある日、私は再び彼と2人きりで話す機会を得た。
これまでは周りからのどんな影響を与えられようと唯一人の人を追い続ければ良かった。でも、彼はあの人とは違う。