御茶会後日


 先日起こった、透ご立腹事件(春樹命名)。
 自分を心配してくれる透に、感激のあまり思わず首を絞めてしまった由奈。
 その後春樹によって強制的に引き剥がされたわけだが、そんないつも通りのやり取りをしていたせいか透の不機嫌はいつの間にか消えていた。
 周りにとっては透の不機嫌は痛くも痒くも無い。むしろからかう要素が増えて面白い。ところが、彼が不機嫌になると、一緒に彼女、由奈まで不機嫌に、というか暗く沈むのだ。
 これは大変まずい。
 何がまずいのかと言うと…まあ、それはまたの機会に説明するとしよう。
 とりあえず、今は透の気分に由奈の気分が非常に左右されるという事を分かっていただければ、十分である。
「春樹?どうした」
「いや、何でもない」
 先日の出来事を思い出して物思いに耽っていた春樹に、透が声をかけた。
「そう言えば、昨日だろ?あの招待状の茶会」
「ああ。由奈から連絡が来なかったから、大丈夫だったんじゃないかな」
 以前の出来事の二の舞があるかもしれないと心配で仕方なかった透は、大丈夫だと言う由奈に何かあったらすぐに連絡するという約束をした。本当なら自分も出席したかった。主催する女子生徒に自分も参加すると伝えようとしたのだが、何故か由奈が猛烈に反対してきた。
 理由を聞いたが、嫌だの一点張り。
 ついに透のほうが折れ、先程の約束を取り付けた。
 思わず透は溜息を吐く。
「どうして由奈はお茶会に参加する事に反対したんだ?自分の身が危ないかもしれないのに」
「あれだろ」
 春樹の言葉は続かなかった。何故ならその前に話の中心人物、由奈が春樹に体当たりを食らわせたのだ。ものすごい勢いで。
 いきなり出現した由奈の行動に透は面食らった。まさにポカーンと表現するのが一番適切だろう。
 だからか、わき腹にものすごいダメージを食い、痛みで悶える春樹を見て真っ先に頭に浮かんだのが先日の自分を軟弱呼ばわりされた事だ。
 春樹は由奈に体当たりされても、先日の透のように倒れる事はなかった。やはり自分は軟弱なのだろうかと心を悩ませたのは、できれば自分だけの秘密にしたい。
 そっと気付かれないように溜息を吐く透。
「ごきげんよう。透、それから春樹。今日も良いお天気で・・・どうかしたのですか?透」
 しかし、流石は透大好きな由奈。痛みに悶えている春樹などお構いなしで爽やかな挨拶をした後、彼が憂いを感じている事に直ぐに気付いた。
「何でもない。…ちょっと、俺って情けないなって」
 はぐらかそうとした。だが、すぐに透は最近それをして彼女は引かないどころか、遂には不機嫌になってしまった事があったのを思い出す。
 危ない、危ない。
「透は情けなくないですよ?いつもわたくしは透に救われています」
 笑顔で断言する由奈の言葉に心が軽くなるのを感じた。
 今だ痛みから復活できていない春樹を見、目線を由奈に戻す。
「由奈にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
 そう笑顔で返した透を見た由奈は、今の時期の様な優しい微笑みを浮かべた。



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