招待状


「で、手紙の内容はなんだったんだ?」
 由奈の言葉に撃沈した透を慰めながら、春樹は由奈に質問をする。
 透から受け取った手紙の内容を読んだ由奈は少し悩むように、あごに手を添えた。
「今週末にあるお茶会の招待状です」
 にっこりと笑って答える由奈。
 おそらく、ここに彼ら以外の人がいたら、彼女の背後に黒いオーラが出ているのを見たことだろう。
 あいにく、ここには鈍い男どもしかいない。
 その中でも察しが良い方の春樹は由奈が不機嫌なことに何となく気づいた。
 はて、先ほどまではこんなではなかったはずだが。
 思い当たる原因は…。
 と、考えをめぐらせると、一つの事に気づく。
 まあ、由奈が不機嫌になる原因はたいていこいつだ。
 大方、やっと来たのに自分にかまってくれないからだろう。
 由奈がこいつをいじるからだという考えはないのだろうかと思いながら、まあ、自分に害はないから良い。
 結局、放っておくことに落ち着いた。
「行くのか」
「ええ、せっかくのお誘いですもの」
 嬉しそうに由奈はいう。
 実際はどす黒いオーラを振りまいた周りに恐れられる笑顔だが、ちらっと盗み見した透はその笑顔を見てぼへっとしていた。
「由奈、大丈夫か?」
 透が言うと、由奈はぽかんと呆けた。
「この前行ったところでまた変なのに好かれただろ?それをこいつは心配してるんだよ」
 透が自分を心配しているということが大変嬉しかったのだろう。由奈は目を輝かせた満面の笑みで透に抱きついた。
「わたくしを心配してくださってるのですか?透!!わたくしはとっても嬉しいです!」
「うわっ!」
 由奈がいきなりしゃがんでいた透に飛びかかる様に抱きついたものだから、透は後ろに倒れる。
 透も男性なので勢いよく倒れるという情けないことにならなかったが、強か腰を打った。
「っつ…由奈お願いだからいきなり抱きつかないでくれ」
「そんな…透はわたくしのことが嫌いなのですか?」
 苦情を言ったら、由奈はとても悲しそうな表情をずいっと近づけた。
「いや、そういう訳じゃなくて」
 そこで春樹がすかさずフォローを入れる。
「こいつは恵と違って人を受け止めることができない貧弱な体なんだ。万が一お前に怪我でもさせたら嫌なんだろ」
 なんとも、透の男としてのプライドを傷つけるフォローの入れ方だった。
「お前…俺をフォローしてくれてるのか?貶しているのか?」
 自分でも女の子が抱きついてきて倒れるという情けないことをしたと自覚しているが、他の人と比べられて言われると結構ショックだ。それもあの美少年の恵とだ。事実彼は見た目によらずかなり頼もしいが。
 再び落ち込みそうになった透とは逆に、由奈は目を輝かせ、高揚したためか頬を紅く染める。
「透!やはりあなたはわたくしのことを愛していらっしゃるのね!!ああ、わたくし嬉しくて今にも空を飛べそうです!」
 なんて言いながら透の首にぎゅっと抱きつく。
 テンションが上がっているため力加減など考えていないわけで、当然抱きつかれた透は呼吸が上手くできなくなる。
「ゆ、由奈…ギブギ、ブ…く、苦しい」
 透は必死に由奈の背中を叩きながら訴えるが、由奈の耳には入っていない。
 さすがに透が危ないとおもった春樹が助けに入る。
「由奈、やり過ぎ」
 そう言いながら透の首に巻きついている由奈の腕をべりっと外す。



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