春、それは新しい季節。
 春の陽気に誘われて、血迷う者も出てくるわけさ・・・。
「鳴沢君!あの、これ・・・」
 昼休み。
 知らない生徒から呼び出しを受け、何用だと来たこの学園にある巨大な庭園。
 そこで頬を赤らめた女子生徒から手紙を差し出される。
 受け取ってくれと言わんばかりの少し潤んだ目に真っ直ぐ見つめられたら、大抵の男は受け取ってしまうだろう。俺もその中の一人になりたいが――
 しかし!!

「美崎様に渡してもらえませんか?」
 来た来た来た来たー!!!!
 何が悲しくて、自分じゃない奴への文など受け取らねばならんのだ。
 と思うものの、小動物のように見つめてくる彼女の要求を断る事もできず・・・はい。
 悲しいかな、いつものごとく受け取る俺。
 お願いします。
 誰か慰めて下さい・・・。


 背後にどんよりとしたものを背負いながら、いつものたまり場である温室に入る。
「やっと来ましたね!もう少し遅かったら、先にお昼御飯を食べているところでした」
 入った途端に笑顔で話しかける元凶を見て、おれは溜息をついた。
「ほら、またお前宛の手紙預かったぞ」
 近づいて手渡すと、きょとんとした顔で元凶は手紙を受け取った。渡された手紙をしばしぼけっと見ていたあいつは、可哀想な目つきで俺を見つめた。
「毎回、大変ですね・・・。頬を染めた可愛らしい女の子から手紙を手渡され、一瞬胸をときめかせるものの!!すぐにばっさり切られる貴方の心情を考えると・・・」
 よよよよよーと目の端に溜まった涙をぬぐうような仕草をしながら、俺の心の傷をえぐる言葉を発する。
 俺は悔しさからか、悲しさからか、震える拳を握りしめ、反論を試みる。
「まだ、まだ他の奴に渡すよう頼まれるならたえられる・・・でも何が悲しくてこいつへ渡すために手紙をもらなければならないんだ!!」
「お前がコイツの幼馴染だから」
 ずばっと、近くにあった椅子に座っている春樹に言われた。分かってはいるさ、分かってはいるけど・・・。
「俺が言いたいのは、どうして女の子から女のこいつへの手紙を渡すように頼まれなきゃいかんのだ・・・」
 言っていて悲しくなってきた俺は、顔に手を当ててうずくまる。
「由奈、お前の郵便屋さんが泣き出したぞ」
 おい、誰が郵便屋さんだ。
「あらあら、透。大丈夫、貴方は魅力たっぷりの素敵な男性よ?ただ、彼女達にとっては、わたくしの方が魅力的だっただけ・・・。だから気にする事はないわ」
 座っていた椅子から立ち上がった由奈は、うずくまっている俺のところまで来た。  はじめは背中に手を当てながらかけられる優しい言葉に、少し心にじんわりと傷が癒されるのを感じたのに!!
 笑顔で先ほどより深く傷をえぐられた・・・。



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