私の肉親は父母と弟妹がいます。
 けれど、共に暮らしているのは母と私を含めた兄妹だけで、父は別の場所に暮らしています。
 妹が生まれる前、何故父は一緒にこの家に暮さないのかと母に尋ねたところ、

 あの人はあの人の暮す場所をあそこに定めた。
 そして自分はここに定めた。
 ただそれだけのことだ。

 という答えが帰って来ました。
 私は父が母や私達よりもあの場所の方を優先したのだと思い、不満な気持ちでいっぱいになりました。
 その不満を父に会った時に訴えると、父は困った顔をしてごめんなと言うだけでした。
 父の答えにも私は納得がいかず、数年の間、父とは必要最低限の会話しかしませんでした。
 父と母が一緒に暮らしていないのか、その理由を教えてもらい自分なりに納得した今は親子として良好な関係を築いていると自負しています。


 私達家族にとても親しい1人の男性がいます。
 彼は父よりも私達兄妹とともにいた時間を多く持っていました。
 彼は母を心から愛し、父を慕い、私達を慈しんでくれました。
 今彼は父の仕事を手伝い、父とともに暮らしています。元は母の部下で、私達兄妹が幼いころは私達と同じ場所に暮らしていました。
 いつの間にか彼は私達の場所から、母の元からいなくなり、父の場所に居場所を変えました。
 どうしてなのか尋ねたとき、彼は誇らしさに少しの寂しさを含ませて、母に父を頼むと言われたと答えてくれました。
 この時、この人は母の傍から離れたくなかったのだと思い、母を唯一人の人として心から愛しているのだと、悟りました。
 じっと彼を見つめる私に、彼は私が母から授かった青銀の髪を愛おしそうに撫でました。
 そして一言、こう言ったのです。

「私は彼女を愛しているし君たちが大事だけれど、君たちの父親には勝てないよ。」

 彼が私に何を伝えたいのか、当時の私にはわかりませんでしたが、この言葉は私の中に残り、ふとした瞬間に思い出すようになります。

両親とその友人について

 意識して優しくすることの、どこがいけないの?
 相手にとっては同じ事 無意識でも、そうでなくても
 人を傷つけるのも同じことが言えるよ
 きっかけが何であれ
 目的があったとしても
 あなたが優しさをくれて、私が笑って、あなたが一瞬でも嬉しいと感じたのなら  それは意味のある、有意義な事なんじゃないかな

 私はそう思うよ
 私は、ね

 最近、眠りから覚めた後、思うことがある。

 自分は何だったけ。
 いま、ここはどこで。
 自分はどこに住んでいて。
 どんな人たちと関わりを持って。
 何を目的として生きているのか。

 薄暗い中。
 天井に向かって腕を伸ばし、手のひらを向ける。
 ぼんやりと、自分の手の甲を見て考える。

 自分の名前を。
 どんな人間かを。

 確かめないと、動けない。
 どうしてか、最近不安定だ。
 自分の存在が上手く自分の中で確定できない。

 私は、なんだろう。

不確かで不安定で

 寒い風が吹くなか、家に帰るため道を歩く。
 夜道を照らす街灯は、広く距離を取って並んでいる。
 合間の暗闇にほんの少しの不気味さを覚えながら、冷たい風に押されるように足早に通って行く。
 やがて、足の爪先がかじかみ、耳の冷えで頭に痛みを感じ始めたころ、目的地が視界に入った。
 もう少しでこの寒さから逃れられるとわかると、自然と歩く速度が速まる。
 玄関に到着し、中には入る。

 ああ、やっと着いた。

 心の中で呟いて、ただいまーと声を出す。
 居間に入ると、暖かい空気と家族の存在感が冷えた体を包み込み、体に覆い被さっていたものがストンと落ちた。

帰り道

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