「なあ、あの男は止めておけ」
 会って開口一番にそう告げた憎らしい男を見上げた。
 いやまて、その前にちょっと確認せねばならぬ事が。
 ここは私の住んでいるアパートの室内のはずだ。そして私は一人でそこに暮らしている。
 なのに、チャイムも無しで招き入れた覚えもない男が何故居るのか。
「不法侵入なんですけど」
「俺とお前の仲じゃないか。かたい事言うな」
 詫びれもせずに、男は言い放つ。
 あんたとあたしゃぁどんな仲だ、どんな。
 と問いかけたいが、そんな問いは跳ね返されるどころか届かないとこを今までの経験で知ったしまった彼女は溜息を吐いた。
「警察が法を犯してえばってるんじゃない」
 そう、何を隠そうこの不法侵入しておきながら堂々と人の冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ごくごくと飲んでいるこの男は警察官なのである。
「あ!この野郎!!大事に飲んでるカルピスほとんど飲みやがったな」
「プッハ―!ごっつぉうさん」
 清々しい笑顔で全て飲み終えた男を諦め大半で眺める彼女。
「だから、あの男は止めておけ」
 何が「だから」なのか分からないが、いきなりそんな事を言い出す男に腹が立つ。
「何の事?」
 心当たりがあり、私は不機嫌になりながら男に問う。
「お前、この前知り合いにあの男を紹介されたんだろ?あいつは止しておけ。泣きを見るだけだ」
 そう言いながらペットボトルを捨てに台所に行く男を睨みつける。お前に言われたくない。
「私の好きでしょ。あんたに言われる筋合いはない」
「可愛いはとこが、ろくでもない男に引っかかろうとしているのを黙っていられるわけないだろ」
 そうなのだ。この男と私の関係ははとこなのである。お互いの母親がいとこ同士で仲が良かった為、昔から良く遊びに行った。
 そして、面倒見の良い年上のはとこに私は恋を抱いているのだ。
 でも、一人っ子の彼にとって、私は妹としての愛情しかくれない。
「とりあえず、忠告はしたぞ。それじゃ、俺は帰る」
「今日もデートですか!良い御身分ですな」
 玄関へと向かう背中に刺々しい言葉を投げる。それに男は手を振っただけでこちらを見る事は無かった。
 悔しくて、私は近くにあったぬいぐるみを投げる。だが、男は扉の向こうに消え、ぬいぐるみは扉に激突し、落下した。


振り向いてくれないくせに、次の恋を邪魔しないで






title:確かに恋だった

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