時として人は無謀な賭けに出る。
 それがその人の人生を明るいものか暗いものかどちらかに導くのだとしたら、そんな2分の1の確立に縋り付く事態にならないよう対処するのが"正しい大人"というものではないだろうか。

 だが…そのような事態を招いてしまうのが愚かな人間という生き物なのだろう。
 いや、私がその"正しい大人"ではなかっただけなのだろうか。

「さあ、どうでしょう」
 机をバンバン叩き答えを催促する彼女に、反対側にいる男性はうんざりとした表情である。
「どうでしょうと聞かれても、今の話でお前が何を求めているのかさっぱりだ」
 彼の答えを聞いて彼女じゃ納得がいかないという風に、再びバンバン机を叩く。
 うるさいと彼に頭を叩かれ、きゅーと高い音を出して机に突っ伏した。
「だからね、そんな事態にならないように対処したって、いつかはそういう場面に遭遇してしまうのが人間ってやつなのですよ?そんで無謀な賭けに出てしまえば、どっちに転んでも平穏で生ぬるい生活が壊れてしまうわけで」
 彼女が一旦言葉を区切ったので、彼がそれで?と先を促す。
「分かってたのに、それでも止められない気持ちがあった自分にびっくりしたわけ」
 段々と彼女の声が変化していくことに彼は気づいたが、何も言わずに彼女の言葉に耳を傾ける。
「分かってた、はずなのになぁ。どうしてとめられなかったんだろ」
 自分のこと。
 段々と涙声になってくる彼女の言葉になんとなく事情を察した彼は、沈黙しているしか彼女の気持ちに応える事が出来なかった。
「本当に好きだったの。例え報われないってわかってても、初めてだったからどうやってこの気持ちを昇華させればいいのか分からなかった」
 ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた彼女に、彼はティッシュを贈呈する。
「ほれ、鼻かめ」
 彼の言葉に促されて、彼女がのろのろと顔を上げると案の定彼女の頬は涙で濡れていた。
 鼻をかんでいる彼女をから視線を外して、彼は言葉を紡ぐ。
「お前はあいつから、初めて1人の男を好きになる気持ちを教えてもらったんだろ」
 彼の言葉にティッシュで鼻を押さえた彼女が2回、肯く。
「それは痛みが伴うものだけど、大切なことだったんだ。痛みを伴うから、大事なことなんだ」
 う?と首をかしげた彼女は、涙で潤んだ瞳を彼を見つめた。
「思う存分泣いて吐き出したいことを吐きだすと良い。聞いててやるから」
 慰めるように頭を撫でてくれる彼の優しさに、彼女は再び涙が溢れてきた。それと同時に外に出したい言葉も溢れて来た彼女は、涙で鼻声になった声でポツリポツリと自分の心を語る。
「今まであの気持を何て言うのか分からなかったけど、あれは…」

確かに恋だった

(初めての、恋。・・・・・・ん?初恋??・・・初恋だったんだぁ!!)
(はぁ!?今気付いたのか!?)




2010/02/05

title:確かに恋だった

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