「お前と同じで、俺にも、俺のものじゃない記憶がある」
 彼から発せられた言葉に、私は耳を疑った。
「え・・・どうして。核に記憶が付いていても、"星"によって取り除かれるはずじゃ」
 数ヶ月の間で頭の中に叩き込んだ知識を思い出す。
 "星"に還った核はまっさらな状態に戻り、再び生を授かることになっているとあの人は教えてくれた。
「"星"も完全なものじゃない。たまに、完全に取り除かれることなく戻されることがある」
 その説明を聞いて納得したと同時に、自分の中で"星"は失敗をしない、完全なものだと思い込んでいたことに気がついて愕然とした。
「それじゃあ、あなたはあなたの前の人の記憶を持っているの?」
 彼は首を振り、否定を示した。
「俺はそういうのじゃない。・・・俺のは"星"の残骸みたいなものだ」
「"星"の・・・残骸?」
 少なくともそのような言葉は教わっていない。
「"星"は何十億もの長い年月を過しているのは知っているよな」
 肯定の意を表すため頷く。
「お前も見たように"星"も個を持っている。個を持っているということは核を持っている。ただし、他とは比べ物にならないほどの、な。核を持っているということは…」
 私に答えを導き出させるためか、勿体ぶって彼は一旦言葉を切った。
 私は彼の求める答えを言葉に出した。
「心ができる」
 彼は薄く笑い、正解と言った。
「ま、個がある時点で意思があるってことだけどな。だから"星"も物事を記憶する。そして記憶したことを忘れるという行為が起こるわけだ」
 わかるか、と確認してきた。一応なんとなく理解できたので頷いたが、少し頭が混乱している。
「大方は消滅するんだが、稀にまっさらになった核にくっ付いて戻されることがあるらしい。星の核に近づいた際運悪く"星"の記憶が切り離された時期と重なって影響を受けたんだろう。俺はその記憶を星の残骸と呼んでる」
 ・・・ということは。
「それが、あなたの持っているあなたのものじゃない記憶、ということ?」
 今度の問いに、彼は表情に感情というものを消したように見えた。
「ああ、だからすぐにあんたのこともわかった」



09/03/08



  Novel