蘇芳と菫の繋がりを知った日から数日が過ぎたある日。茜は絵を描きにいつもの道具を詰め込んだカバンを持って、公園への道を歩いていた。
すっかり暖かくなり上着が必要なくなった外を、茜は目的地を目指して黙々と進んでいく。
人通りの少ない道を歩いていると後ろから肩を叩かれた。
「茜ちゃん」
いきなり肩を叩かれたので、茜は驚いて警戒したが、直ぐに覚えのある声がしたのでそれを解いた。振り返って相手を見る。
「菫さん、こんにちは」
「こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇だね」
先日のように公園だったり喫茶店で遭遇するのは時折あるのだが、このように道端で会うのは初めての事だった。
「こんな所でお会いするとは思いませんでした。どこへ行かれるんですか?」
2人は自然と横に並び、会話をしながらゆっくりと歩き始める。
「私はこれから仕事場に帰るところ。茜ちゃんは絵を描きに行くの?」
「はい」
「なら、その後はマスターのところに行くんだよね。良いなぁ。私もマスターのところでコーヒー飲みたい!」
心底悔しそうに菫は言う。その姿を見て茜は先日の出来事を思い出した。
「そういえば、菫さんは蘇芳さんとお知り合いだったんですね」
菫はきょとんと何を言われたのか思い当たらないといった表情を浮かべていたが、少ししてああ、と声を出した。
「蘇芳くんから聞いたよ。茜ちゃんと知り合いで一緒に出かけるまでの間柄になっていたなんて思わなかった。」
「私も驚きました。マスター、自分の入れたコーヒーを菫さんがとても好きだって蘇芳さんから教えてもらって、とても喜んでましたよ」
「マスターのコーヒーは今まで飲んできたどのコーヒーよりも美味しいから。他のを飲むと物足りなくて、少し困ってるけど」
菫は苦笑を顔に浮かべて言う。
「ところで、私さ、蘇芳くんから話を聞いた時、ピンときた事があるんだ。・・・茜ちゃんの恋の相手って、蘇芳くんでしょ」
楽しげに確信を持って菫が言う。茜は自分の想いを言い当てられたことで顔に熱が集まり、どうして菫は分かったのだろうかという疑問で頭が混乱した。
否定をしない茜の反応を見て、菫はやっぱりと笑った。
「消極的な茜ちゃんが自分から男性を誘ったって聞いたから、もしかしたらと思ったの。私の勘は正しかったわ」
菫は少し誇らしげに自分の推測に満足した。
「彼、今は特定の人とかいないらしいから、頑張って!」
菫が茜へ激励の言葉を贈る。彼女のこの反応から、本当に菫と蘇芳は恋人同士ではないのだと茜は確信した。
もっと蘇芳と菫の関係などについて詳しく聞きたかったが、2人は公園の入口近くまで来ていた。ここで菫と別れなければならない。
「またね、茜ちゃん」
「はい。お仕事頑張って下さい」
仕事場に戻っていく菫を茜は笑顔で手を振って見送った。菫が完全に自分に対して背を向けたのを確認して、茜は笑顔を取り払い暗い表情で深く息を吐いた。深く息を吐くことで気持ちを切り替え、茜は公園の中に入って行った。
公園内に入ると茜は今日はどこで絵を描こうか、良い場所を探し始めた。前回は花壇を中心にその周りの風景を描いたので、今回は道端に咲いている小さな花でも描いてみようか。
歩きながら色々なものを見ていくが、なかなか描きたいと思うものが見つからない。これは先程の菫との会話を引きずっているなと茜は苦笑した。
気が乗るのを待っていてもただ時間が過ぎていくだけなので、取り敢えず近くの目についたものを描こう。何かよさそうなものはないだろうかと辺りを見回すと、ベンチの近くに咲いている蒲公英と土筆を見つけた。その瞬間に茜は直ぐに絵を描く態勢に入った。
カバンからスケッチブックを取り出しベンチに座る。周りには木陰がないためベンチは陽の光に照らされている。いつもなら強い日差しを気にしてなるべく日が当たらない場所を陣取って描き始めるのだが、そんな事を気にする間もなく、茜は絵の対象物に意識を集中させる。
スケッチブックの真っ白なページを開き、ペンケースから鉛筆を取り出して線を引いていく。
茜は外からの情報を得るための意識を最小限にして、その他の全神経を絵を書くことに集中させた。
すっかり暖かくなり上着が必要なくなった外を、茜は目的地を目指して黙々と進んでいく。
人通りの少ない道を歩いていると後ろから肩を叩かれた。
「茜ちゃん」
いきなり肩を叩かれたので、茜は驚いて警戒したが、直ぐに覚えのある声がしたのでそれを解いた。振り返って相手を見る。
「菫さん、こんにちは」
「こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇だね」
先日のように公園だったり喫茶店で遭遇するのは時折あるのだが、このように道端で会うのは初めての事だった。
「こんな所でお会いするとは思いませんでした。どこへ行かれるんですか?」
2人は自然と横に並び、会話をしながらゆっくりと歩き始める。
「私はこれから仕事場に帰るところ。茜ちゃんは絵を描きに行くの?」
「はい」
「なら、その後はマスターのところに行くんだよね。良いなぁ。私もマスターのところでコーヒー飲みたい!」
心底悔しそうに菫は言う。その姿を見て茜は先日の出来事を思い出した。
「そういえば、菫さんは蘇芳さんとお知り合いだったんですね」
菫はきょとんと何を言われたのか思い当たらないといった表情を浮かべていたが、少ししてああ、と声を出した。
「蘇芳くんから聞いたよ。茜ちゃんと知り合いで一緒に出かけるまでの間柄になっていたなんて思わなかった。」
「私も驚きました。マスター、自分の入れたコーヒーを菫さんがとても好きだって蘇芳さんから教えてもらって、とても喜んでましたよ」
「マスターのコーヒーは今まで飲んできたどのコーヒーよりも美味しいから。他のを飲むと物足りなくて、少し困ってるけど」
菫は苦笑を顔に浮かべて言う。
「ところで、私さ、蘇芳くんから話を聞いた時、ピンときた事があるんだ。・・・茜ちゃんの恋の相手って、蘇芳くんでしょ」
楽しげに確信を持って菫が言う。茜は自分の想いを言い当てられたことで顔に熱が集まり、どうして菫は分かったのだろうかという疑問で頭が混乱した。
否定をしない茜の反応を見て、菫はやっぱりと笑った。
「消極的な茜ちゃんが自分から男性を誘ったって聞いたから、もしかしたらと思ったの。私の勘は正しかったわ」
菫は少し誇らしげに自分の推測に満足した。
「彼、今は特定の人とかいないらしいから、頑張って!」
菫が茜へ激励の言葉を贈る。彼女のこの反応から、本当に菫と蘇芳は恋人同士ではないのだと茜は確信した。
もっと蘇芳と菫の関係などについて詳しく聞きたかったが、2人は公園の入口近くまで来ていた。ここで菫と別れなければならない。
「またね、茜ちゃん」
「はい。お仕事頑張って下さい」
仕事場に戻っていく菫を茜は笑顔で手を振って見送った。菫が完全に自分に対して背を向けたのを確認して、茜は笑顔を取り払い暗い表情で深く息を吐いた。深く息を吐くことで気持ちを切り替え、茜は公園の中に入って行った。
公園内に入ると茜は今日はどこで絵を描こうか、良い場所を探し始めた。前回は花壇を中心にその周りの風景を描いたので、今回は道端に咲いている小さな花でも描いてみようか。
歩きながら色々なものを見ていくが、なかなか描きたいと思うものが見つからない。これは先程の菫との会話を引きずっているなと茜は苦笑した。
気が乗るのを待っていてもただ時間が過ぎていくだけなので、取り敢えず近くの目についたものを描こう。何かよさそうなものはないだろうかと辺りを見回すと、ベンチの近くに咲いている蒲公英と土筆を見つけた。その瞬間に茜は直ぐに絵を描く態勢に入った。
カバンからスケッチブックを取り出しベンチに座る。周りには木陰がないためベンチは陽の光に照らされている。いつもなら強い日差しを気にしてなるべく日が当たらない場所を陣取って描き始めるのだが、そんな事を気にする間もなく、茜は絵の対象物に意識を集中させる。
スケッチブックの真っ白なページを開き、ペンケースから鉛筆を取り出して線を引いていく。
茜は外からの情報を得るための意識を最小限にして、その他の全神経を絵を書くことに集中させた。