マスターから小言をもらい、茜は少し憂鬱になりながらも蘇芳が喫茶店に来るのを待った。
ここで彼に会うことが自分の活力になっている。その活力を補充しなければ、自分はきっと生きていけない。
などと他の人に話せばそんな馬鹿なと笑われるような事を茜は真面目に考えていた。
いつもならここに来てコーヒーを飲んでいる頃だというのに、今日はここに来れなくなってしまったのだろうか。そう思うと、彼はいつ来るだろうかと浮きだっていた心が段々と沈んでいく。ここが喫茶店でなければ、彼女の気分が沈んでいくのと同時に、彼女の頭がテーブルへと沈んでいっただろう。
茜が喫茶店の外をずっと眺めるようになった頃、喫茶店の出入り口の扉が開いて蘇芳が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
いつもの様にマスターが声を掛けると、蘇芳は笑って挨拶を返した。
「こんにちは、蘇芳さん」
蘇芳が来た途端に先程まで醸し出していた物悲しさを払拭し、茜は晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。そんな茜の早変わりを見ていたマスターは、恋する女の子はすごいなと呆れるよりも感心した。
「こんにちは、茜ちゃん」
蘇芳は茜に笑顔で挨拶を返すと、いつも座るカウンター席に腰を下ろしてマスターにコーヒーを注文た。
「今日はいつもより遅かったけど、何かあったのかい?」
マスターが蘇芳の前に水を置きなが尋ねる。
「ここに来る途中で知り合いに会って、話し込んでしまって」
蘇芳が楽しそうに話すその横顔を茜は見る。今自分の知らない誰かの事を思い出して、蘇芳は嬉しそうだ。彼が楽しそうにしているのは良いことだと思うのに、何故か、蘇芳に会えたことで浮かんだはずの茜の気分が少しずつ沈んでいった。
何故こんな気分になるのか首をかしげながら、茜は蘇芳の話に耳を傾ける。
「そうなんだ。いつもの時間になってもなかなか来ないから、どうしたんだろうねって茜ちゃんと話していたんだ。ねえ、茜ちゃん」
いきなりマスターが話を振ってきたので茜は驚いて、思わず頷いた。
頷いてから、これでは自分が蘇芳が来ることを期待していたと言っているようなものだということに気付き、顔に熱が集まる。
茜が顔を赤らめた理由を知っているマスターは、笑顔を浮かべながら彼女を見る。ここは一つ、茜のために蘇芳に事情を深く聞いてみるか、とマスターは彼に更に問い掛ける。
「知り合いって、仕事関係のかい?」
「いえ、大学時代の友人です。彼女はここに来た帰りだったらしくて、久しぶりにマスターのコーヒーを堪能出来て嬉しかったと言っていました」
「そう言ってもらえるのはとても嬉しいよ」
茜は蘇芳の言った“彼女”という部分に反応した。“彼女”という三人称を使うということは、その知り合いは女性である。
その人と蘇芳はどういう関係なのだろうか、大学時代の友人と言っていたが本当はどう思っているのか、などと茜はもんもんと1人で考え込む。
「彼女ということは女性?・・・もしかして蘇芳くんの友人って長谷部菫ちゃんかな」
コーヒーを頼んで、喫茶店へ来る途中の蘇芳と会うだろう時間帯にここを出た女性は菫1人しか思いつかなかったので、マスターが蘇芳に尋ねる。
「あ、はい。そうです」
思った通り、蘇芳の言っていた大学時代の友人とは菫のことだった。
茜はここで出てきた女性の名前で出来た繋がりに心底驚いた。これにはマスターも驚いたようで、先程まで浮かべていた笑顔を崩して驚きの表情を浮かべた。蘇芳と菫がここで会っているところをマスターは見たことがなかったのだ。
「いや、蘇芳くんは彼女と知り合いだったのか。驚いた」
「ここを教えてくれたのは彼女なんですよ」
懐かしそうに語る蘇芳の横顔を見て、茜は複雑な感情を抱いていた。
ここで彼に会うことが自分の活力になっている。その活力を補充しなければ、自分はきっと生きていけない。
などと他の人に話せばそんな馬鹿なと笑われるような事を茜は真面目に考えていた。
いつもならここに来てコーヒーを飲んでいる頃だというのに、今日はここに来れなくなってしまったのだろうか。そう思うと、彼はいつ来るだろうかと浮きだっていた心が段々と沈んでいく。ここが喫茶店でなければ、彼女の気分が沈んでいくのと同時に、彼女の頭がテーブルへと沈んでいっただろう。
茜が喫茶店の外をずっと眺めるようになった頃、喫茶店の出入り口の扉が開いて蘇芳が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
いつもの様にマスターが声を掛けると、蘇芳は笑って挨拶を返した。
「こんにちは、蘇芳さん」
蘇芳が来た途端に先程まで醸し出していた物悲しさを払拭し、茜は晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。そんな茜の早変わりを見ていたマスターは、恋する女の子はすごいなと呆れるよりも感心した。
「こんにちは、茜ちゃん」
蘇芳は茜に笑顔で挨拶を返すと、いつも座るカウンター席に腰を下ろしてマスターにコーヒーを注文た。
「今日はいつもより遅かったけど、何かあったのかい?」
マスターが蘇芳の前に水を置きなが尋ねる。
「ここに来る途中で知り合いに会って、話し込んでしまって」
蘇芳が楽しそうに話すその横顔を茜は見る。今自分の知らない誰かの事を思い出して、蘇芳は嬉しそうだ。彼が楽しそうにしているのは良いことだと思うのに、何故か、蘇芳に会えたことで浮かんだはずの茜の気分が少しずつ沈んでいった。
何故こんな気分になるのか首をかしげながら、茜は蘇芳の話に耳を傾ける。
「そうなんだ。いつもの時間になってもなかなか来ないから、どうしたんだろうねって茜ちゃんと話していたんだ。ねえ、茜ちゃん」
いきなりマスターが話を振ってきたので茜は驚いて、思わず頷いた。
頷いてから、これでは自分が蘇芳が来ることを期待していたと言っているようなものだということに気付き、顔に熱が集まる。
茜が顔を赤らめた理由を知っているマスターは、笑顔を浮かべながら彼女を見る。ここは一つ、茜のために蘇芳に事情を深く聞いてみるか、とマスターは彼に更に問い掛ける。
「知り合いって、仕事関係のかい?」
「いえ、大学時代の友人です。彼女はここに来た帰りだったらしくて、久しぶりにマスターのコーヒーを堪能出来て嬉しかったと言っていました」
「そう言ってもらえるのはとても嬉しいよ」
茜は蘇芳の言った“彼女”という部分に反応した。“彼女”という三人称を使うということは、その知り合いは女性である。
その人と蘇芳はどういう関係なのだろうか、大学時代の友人と言っていたが本当はどう思っているのか、などと茜はもんもんと1人で考え込む。
「彼女ということは女性?・・・もしかして蘇芳くんの友人って長谷部菫ちゃんかな」
コーヒーを頼んで、喫茶店へ来る途中の蘇芳と会うだろう時間帯にここを出た女性は菫1人しか思いつかなかったので、マスターが蘇芳に尋ねる。
「あ、はい。そうです」
思った通り、蘇芳の言っていた大学時代の友人とは菫のことだった。
茜はここで出てきた女性の名前で出来た繋がりに心底驚いた。これにはマスターも驚いたようで、先程まで浮かべていた笑顔を崩して驚きの表情を浮かべた。蘇芳と菫がここで会っているところをマスターは見たことがなかったのだ。
「いや、蘇芳くんは彼女と知り合いだったのか。驚いた」
「ここを教えてくれたのは彼女なんですよ」
懐かしそうに語る蘇芳の横顔を見て、茜は複雑な感情を抱いていた。