第11 神楽舞

 私は衣装に着替えた後、自分が担当する楽器である笛を手に持って控え室に入った。そこには神楽に参加する人が幾人か既に待機していた。神楽の舞手である緋華里さんは正座をし、手を膝の上に置いて目を閉じている。きっと集中しているのだろう。緋華里さんの邪魔をしないように私はなるべく静かに扉を閉め、入口に近くに座る。
 腰を落ち着けると、自然と溜息が出た。
 すると、緋華里さんが目を開け、私を見て微笑んだ。
「すみません、邪魔をしてしまいましたか?」
「いいえ、大丈夫よ」
 緋華里さんは立ち上がり、私の前へ来て座り直す。
「あやめちゃん、緊張している?」
 緋華里さんは私の手を取り、優しく握った。
「少しだけ。でも、大丈夫です」
 緋華里さんの問いに、私は笑って答えることが出来た。
「そう、良かった」
 緋華里さんは私の頭を優しく撫でる。落ち着いた雰囲気の彼女を見て、緊張で硬くなっていた体が解れていく。
「さ、本番まで一緒に心を落ち着かせましょうか」
 緋華里さんの提案に私は頷く。私の了承を得ると、緋華里さんは私の手を掴み目を閉じた。
 私も目を閉じて、呼吸を落ち着かせる。周囲は小さな音がするだけでとても静かだ。耳を澄ませて、感覚を外へ外へと広げていくと、不安で揺れていた心が鎮まっていく。どれほどそうしていただろか。小さく何かが聞こえた。
 何の音なのか、興味を惹かれた私は音が聞こえた方へ意識を向ける。
 どんどん意識をそちらに集中させ、もう少しで聞こえた何かが何なのかを掴めそうになった時、別の存在が私の意識を引き戻した。
「あやめちゃん」
 私を緋華里さんが優しく呼ぶ。
 ゆっくりと目を開けて私は緋華里さんを見る。
 緋華里さんは少しだけ困った様な表情を浮かべている。何故彼女がそのような顔をしているのか分からず、私は小さく首を傾げた。
「今は心を落ち着かせる事だけに集中して。

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