光の加減で次々と色を変える石を掲げながら、女性は飽きることなくそれを眺めている。
「いつまでもいつまでも、よく飽きないな」
「どうしてかしら?どれほど時間が経っても、これを通した光は全然飽きないの」
うっとりとした表情で見つめ続ける女性に呆れを含む溜息が漏れた。
「もう見るのを止めて食事をすると、一時間前に約束しただろう?どうして食事が無くなってないんだ」
問いかけるも女性からの返事はない。
何が可笑しいのか、女性から小さな笑い声が絶えない。
クスクス、クスクス
石に魅せられ、正気を無くして不気味なようなでもあり、幼子のようでもある。
時には妖艶に微笑み見る者を惹きつけてやまない彼女は、意識が石から切り離されたようにいきなり此方を見た。
「あの人がね、今度私に素敵なものをくれるんですって!あの人の事だから、きっと私の想像もつかないような素晴らしいものを用意してくれているのでしょうね」
言い終わると女性は再びうっとりと石を見つめる。
その言葉に返事を返すことは無意味だと、視界から女性を消した。
「その素敵なものは、貴女にとってひどく残酷なものなんだ」
小さく呟いた言葉は女性に届くことなく、消えていく。
女性の欲したものは、彼女の望まない結果を伴って彼女の手の中に納まった。
過去を拒否する姿は痛々しい。いや、これは自分の無力さを嘆いているのか。
どうしようもない無力感が体を襲う。
「聞こえてる?私にとって、貴方は唯一の人よ?」
ここにはいない人物に…いや、姿を変えてしまった愛しき人に彼女は語りかける。
彼女に生きる力を与えていたはずの人。
彼女を今の状態してしまった元凶。
「ねぇ、…」
夢の続きをくれたのは、あなただけだったよ
(彼女は今でも夢を見続けている。そんな風にしてしまったお前を、恨んでしまうよ)
title:
確かに恋だった
2010/02/21
自分には無理だった。
あの子に罪はないと分かっている。
選んだのは自分たちだ。
それでも、心が、体がどうしても反応してしまう。あの子の顔を見るたびに、血の気を失い真っ白な最愛の人の顔が浮かんできて、どうしようもない悲しみが湧き上がる。
悲しみが湧き上がる一方で、愛しい人を奪われたという憎悪は全く湧き上がってこなかった。
そして、愛情も。
それらを自分の中で探そうとするが、ぽっかりと穴があいていてそこから流れて外に出て行ってしまったようにしか感じなかった。
最初はあの子を愛せると思い、愛そうと試みた。
空虚と悲しみしか感じないままで、あの子を育てた。
可愛らしいあの子に優しくすれば、笑いかけてもらえれば、自然と愛せるようになると信じて。
でも、どうしても愛する事が出来なかった。
成長して段々愛しい人に似てくるあの子を愛せない自分に苛立ちと怒りが湧き上がるが、愛情は湧き上がらなかった。
だから、あの子が大きくなる前に、自分という存在が大きくならないうちに、あの子を手放す事を決意した。
これがあの子にあげられる、唯一にして最初で最後の愛情だと信じて。
愛せなくて、ごめんね
title:
確かに恋だった
2010/03/03