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 今、室内で机を挟んで向かい合っている女性。
 彼女は突然現れた。
 友人でもなければ、知り合いでもない彼女。
 まあ、彼女が何故来たのか、なんとなく予想出来るのだが。
 出したお茶を相手に勧めて自分も飲む。
 先日奮発して買った高価な紅茶を飲んでみようと用意していた。そこに、丁度良く彼女が来てしまったので仕方なく彼女にも出す。
 高かったのに・・・。
 ついでに紅茶に合うと聞いたお菓子も一緒に出す。これも結構な値段がするので買った量は少ない。彼女が普通に食べてしまったらあいつの分は無いだろうな。
 なかなか口を開かない彼女の様子を探りながらお菓子に手を伸ばし食べる。
 うん。美味い。
 満足して紅茶を飲む。
 1人だったらきっとしまりのない顔をしていたに違いない。それほど幸せなのだが目の前に彼女がいるから表情はいつも通りだろう。
 そろそろどういった用事でここに来たのか話してもらって一人でこの至福を味わいたい。
 そう思っていたら、彼女がようやく口を開いた。
「彼と・・・別れてくれませんか」
 彼女の発言に呆れてしまった。
 そんなことを言われても、なあ。
 彼女の表情は真剣だ。自分が相手に呆れられている事など気にしていないのか気づいていないのか。
 溜息をついて彼女に聞く。
「あいつに別れてくれと、貴女は言ったの?」
 この問いに、彼女は首を横に振った。
「まずはあいつにその事を伝える。で、その次なんじゃないかな?こういうことは。というか、何故貴女がそれを言いに来るのかも理解できない。別れ話は普通付き合っている者同士で解決する事でしょう?」
 手順を知らない子どもへ教える様にゆっくりと伝える。
 彼女は俯いて唇と噛みしめている。
 泣くのかな。
「彼は優しいから、付き合いの長いあなたと別れにくいのは分かっているんです。けど、私と彼は愛し合っているんです。ですから何時までも彼にしがみ付いていないでください」
 泣きそうな顔で彼女は言い切った。
 すごい自信だな。
「ふーん。つまりあいつは私の事を愛していない。でも付き合いが長いからなかなか別れられないでいる・・・と君はそう言いたいのか」
 彼女は頷いた。
 ほほう。どうして彼女がそういった考えに至ったのか実に興味がある。
 これはあいつに問い詰めた方が早いだろう。
 棚に置いてある置時計を見る。
「ごめんね。私はあいつを愛しているし、あいつも君ではなく私の事を愛していると自負している」
 笑顔で言い切ると彼女はすごい顔をした。可愛い顔が台無しだ。
「彼の優しさを良い事に、すごい自惚れですね」
 あーあ。そんなことを言っちゃって良いのかな。ま、恥ずかしい思いをするのは彼女だから私には関係ないのだが。
「まあ、こんなことが言える程度の自信がありますから」
 紅茶を飲む。一息ついてから再び彼女を見ると、彼女は唇を噛みしめていた。ああ、そんなに力を入れては傷が付いてしまう。せっかく可愛いのに。などと今彼女に告げれば完全に馬鹿にされていると勘違いされそうな事を思った。
「とにかく、彼と別れて下さい」
 私がこれほど言ったのにまだ言うか。
 呆れを通り越して感心してしまう。まあ、彼女の言い分を全否定している私も彼女に呆れられていると思うからお互い様といったところかな。
 残りのお茶を飲みながら考える。
 さて、どのように彼女に話したら良いやら。
 ここに今の現状を作りだした元凶がいれば話は早いのだが、残念ながら奴は今用事で出かけている。だから彼女もここに来たのだろう。
 いい加減ここではっきりと伝えてやるか。
「良い事を教えてあげる」
 私は大笑いしたいのを堪えて、満面の笑みを浮かべたまま彼女に告げる。
「貴女の様な事言ってきた人、実はたくさんいるんだ、これが。貴女で5人目だったかな?ここに乗り込んできたのは2人目。いや、すごいね」
 彼女は私が言いたい事を分かっていないのだろう。怪訝そうな顔をした。実に面白い。
「彼にとって貴女はきっと友人だよ。彼に聞いてみると良い」
「そんなことない!彼は私の事を愛しているって言ってくれた!」
「正確には貴女が私の事好き?と聞いて彼はうん、好きだよって答えた・・・じゃない?」
 図星なのか彼女が黙る。
「私の言った事が信じられないのなら彼に聞いてみると良い。“私の事愛してる?”とか“友人として好きなの?”とか、ね。それで彼が貴女を恋人として愛していると言ってからだと思うな、私と彼の別れ話は」
 お菓子を1つつまんで口に入れる。甘いお菓子を咀嚼し、呑み込む。
「彼が貴女を恋人にするなら、私が彼と一緒にいる理由は無いから安心して」
 最後に寂しさを醸し出して、切なげに微笑む。
 彼が私から離れるなど全く思っていないのだが。

 最後の私の言葉に満足したのか、彼女はあの後帰って行った。
 一口二口程しか飲んでもらえなかった紅茶を流し台に流す。
 ああ、もったいないな。やぱりこれを出すんじゃなかったと後悔する。再び自分用にお茶を入れて残ったお菓子をつまむ。
 最初の頃はあのような事があると随分落ち込んだものだが、人間の適応力はすごいと感心してしまう。今ではあのような事があってもいつもと変わらずのんびり過ごしてお菓子と紅茶を楽しむことだって出来るのだから。


 で、彼女とあいつの結末なのだが。
 やっぱりあいつにとっては彼女は友人だったようだ。

あいつの悪い所

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