誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り返る。
 でもそこには誰もいなくて、首を傾げる。
 前を歩いていた人に名前を呼ばれたと言ってみたが、気のせいだろうと返された。
 特に深く考えることもせず、そうかと納得してしまう自分。

 もう少し、その声を気にかけていたら、この道は変わっていたのだろうか。

09/03/08
 彼には還りたい場所があった。
 そこはとても居心地の良い所だとは言えないが、心ゆせる人たちがいた。

 でも彼は還れない理由を抱えていた。

 だから彼は還れない。
 だから彼は還らない。

 そして彼は沈んでいく。おもい重りをその身に絡め。
 沈んでいく彼は忘れていく。逢いたい人の存在を消していく。逢いたいというおもいを捨ててしまう。

 重りを捨てた英雄は、浮かび上がって全てを守る。
 一番の守りたいモノを捨てた英雄は、身軽になって世界を守った。

英雄の還りたい地

 自分が自分である限り、選ぶモノは変わらないだろう。

 幾度同じ選択肢を提示されても、時が同じであればそのものが選ぶものは変わることはないだろう。

 何故ならそのものだからこそ選んで歩く道だから。

 もし、最初から決められている事が運命というのならば、それは自分が生まれた瞬間から始まり、定まっているのだろう。

 生きる間、全て己の選択で決まっているのだから。
 人が起こすことはそれの積み重ねなのだから。

 ならば、運命というのものは人が、己自身が作り上げて来たもの、行くものなのだろう。

 神が用意したものではなく。

 結局は、己自身が生み出すものなのだろう。

人生は選択の先に出来ていく。

「彼氏と別れたの?」

「うん」

「どうしたん?」

「直接の原因は、浮気、かな?」

「あっちの?」

「まあ」

「うわ、最低な奴だな」

「いや、彼だけが悪いわけじゃないから」

「でも、浮気して別れる原因作ったのあっちでしょ?」

「あー・・・浮気というより、好きな子が私から他の人に移ったといった方が正確か」

「はあ?」

「んとさ、付き合っているうちに、私の事が恋人として好きじゃなくなってきてさ、他の子が気になって、その子にアタックしたんだって。で、本当に私よりその子が好きなんだとわかって、この度別れましたとさ」

「付き合っている間に別の子口説いてたら浮気じゃない?」

「さあ、私はそうは思わないけど」

「で、あんたは何でそんなにあっけらかんとしているの?」

「う〜ん。今でも彼の事は好きだよ?でも、それだけ。彼を引きとめるためだけに自分を偽るほどの価値が彼にあるのかと思うと、そうでもないな〜と思って、別れた」

「無理して自分を作ったら、そのうちにそのしわ寄せがきてダメになるから?」
「そういうこと。好きっていう気持ちだけじゃダメだってことを学びました」


取り繕ってもいつかぼろが出るよね。

 お前を愛しているのは事実だ。だけど、お前より大事なんだよ、あいつの事が。
 そう私に言い残して、彼は出ていった。
 そんな事を言う彼ごと愛せば、私は彼のそばに居られる。あの人を捕まえに行った彼が帰ってきたとき、疲れた彼を癒すのが私のできる事。
 だけど、もう、心がけ悲鳴をあげすぎて枯れ始めている。
彼の前で笑ったのはいつだった?
あの雲のようだと思った。
追いかけても追いかけても、近づけない。
その雲を恋い焦がれながらも、わたしは手を伸ばしはしない。

自分の手の届かない場所にあるモノを手に入れようとする、ユウキというものが無いのだろう。

ソラノクモ

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